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僕は、シロムクローと言います。
この部屋から、出たことがありませんでした。
僕は白い骸です。


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気がつくと外に居ました。
でも、僕の姿は誰にも見えなかった。
僕は影でした。


scene0.2
彼は僕と同じ小さな、ああでも外で、楽しそうに。


scene0.3
(君はどうしてそんなに楽しそうなの?)
(君はどうして外の陽を浴びて)
(風を受けて)
(水に触れ)
(人の暖かさを知って)
(それでもなお、)
(ああなんて暴虐な)
(僕だったら僕だったら僕だったら)


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そこで彼は振り向きました。
彼に何か特別な能力でもあったのか、僕らが同じモノだったせいか、
あるいは――僕の思いの強さゆえだったでしょうか。
ああでも僕は本当にその時邪悪だったのかもしれません。
でも僕は今でも後悔をしていない。
僕は彼を呼びました。
――夜に。


scene0.5
僕は本当にそのとき、たった一つのことしか考えていなくて、ああ本当に。


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彼はじっさい優しい人だったのかもしれません。
得体の知れない僕の無言の呼びかけに応えてくれたんですから。
でも僕はそのときそんなことは考えませんでした。
考えたとしても、ああそんなことでこの衝動はとめられなかったんです。


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彼は僕の部屋の扉を開けてくれました。
この部屋は、忌々しいことに、内側からは開かないんです。
彼は僕の体を起こし、そして僕を助け、そう助け!
本来この話はここで終わったってよかったはずなのに。
僕は――ええ僕は、彼を。


scene0.8
初めて触れた外の世界の喜びはあまりにも優しく美しく暖かく!
たとえこの世の終わりのような嵐に見舞われていたとしても僕はそう思ったでしょう。
僕にとっての世界はあの部屋でした。
それを思えば。
ずっと見ていたものたちに触れるために、僕は準備を始めました。
たとえ一日でもよかった。
僕は愛されたかった。


scene0.9
手紙をそっと置きました。
彼女はよく眠っています。
僕は嬉しくて嬉しくて、笑いました。
明日の朝が来るのが待ち遠しくて、ええ本当に。
僕は眠りません。
眠る必要がないのです。
だからずっと起きてました。
そして新しい朝が来るのです。


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